花 影  23














 シンケンレッドは再び、黒子の傍を離れて、アヤカシに近づく。そこで、シンケンマルのディスクを獅子ディスクに付け変えた。左手でディスクを回転させると、回転と共に、シンケンマルが今度は炎を帯びて行く。
「シンケンマル!火炎の舞い!」
 シンケンレッドはアヤカシに向かって走る。アヤカシが枝垂れた枝のような触手を伸ばしてきた。それをシンケンレッドは火炎を帯びたシンケンマルで叩き斬って行く。叩き斬りながら、アヤカシの周囲を周る。丈瑠は、まずアヤカシの触手を全て始末しようと思った。しかし、斬られても、斬られても、触手は再生して伸びてくる。
「無駄だ!無駄だ!」
 アヤカシが叫ぶ。
「これは植物と同じだ。斬られてもいくらでも生えてくるぞぉーーー」
 それでもシンケンレッドは、とりあえず、アヤカシを一周した。そして元の場所に戻ってアヤカシを見上げる。確かにアヤカシが言ったように、アヤカシの触手は全て、元に戻っていた。シンケンレッドはシンケンマルを一振りして、火炎を鎮めた。
「残念だったな、シンケンレッド!」
 アヤカシは嫌味な笑いと共にそう言うと、シンケンレッドの立っている場所に向かって、威嚇するように触手を蠢かす。それをシンケンレッドは顎を上げて見つめた。
「それじゃあ、今度はこっちからだ!」
 アヤカシは、その触手を伸ばすかと思ったら、そうではなく、無数の触手を、鞭のようにしならせてシンケンレッドに向かって放った。鋼のように硬く、刀の刃のように鋭利な無数の触手が、シンケンレッドに襲いかかる。
「烈火大斬刀」
 シンケンレッドは瞬時にシンケンマルを烈火大斬刀に変化させて、それで防御する。防御したが、触手に付着している小さな桜の花状のものが、触手から飛び散り、それが爆発をした。烈火大斬刀の周辺でもそれが起きる。とりあえず防御はできているものの、それでも多少なりのダメージがシンケンレッドを襲った。

「面倒だな」
 丈瑠はそう呟くと、次に巨大な烈火大斬刀を右肩に担ぎあげた。
「はぁぁぁぁぁぁーーー」
 右足を前にして構えた状態で、丈瑠が気合いを入れると、そのモヂカラにより、烈火大斬刀がそれこそ烈火に包まれる。担いでいるシンケンレッドすら焼いてしまいそうな炎だ。十分に炎が廻ったところで、シンケンレッドはアヤカシに向かって一気に走り出す。
「はあああああああーーー」
 アヤカシが触手では間に合わなくて、桜の枝そのものを伸ばしてくるが、それに構わず、シンケンレッドは烈火大斬刀で、アヤカシの胴体を、纏わりついてきた枝ごと、斜めに斬り払った。
「ぐわぁぁあ」
 アヤカシの胴体が大きく斜めに裂ける。うめき声を上げながら、アヤカシの身体が大きく傾いた。このアヤカシは、どうやら枝垂れ桜のある場所から動くことができないようだ。図体が二の目に匹敵する程度に大きいが、動けないという点では、シンケンレッドに勝機はある。シンケンレッドはすぐに烈火大斬刀を持ち替えて、今度はアヤカシの胴体の真ん中に、正面から烈火大斬刀を突きたてる。そして、突きたてたまま
「うぉぉぉぉおおおおーーー」
 と、これでもかとモヂカラを注ぎ込み、ものすごい勢いの烈火を噴出させた。
 あまりに大きなアヤカシなので、一瞬で、という訳にはいかないが、丈瑠のモヂカラにより、アヤカシが身体の中心からじわじわと焼かれていく。アヤカシも触手を伸ばして、シンケンレッドに攻撃を繰り返す。しかしシンケンレッドは烈火大斬刀を突き立てたまま、モヂカラを注入中なので、それらを防ぐことはできなかった。

 シンケンレッドがアヤカシを焼き尽くすのが早いか、触手の攻撃にシンケンレッドが倒れるのが早いか、という状況だ。周囲に控えていた黒子が、少しでもシンケンレッドの助けになればと、アヤカシの一部で、シンケンレッドのいない場所に向かって手投げ弾を投げるが、そんなものでは巨大なアヤカシには、何の効果もなかった。
「いい加減にしろ!お前もこのままでは、死ぬぞ!!」
 アヤカシがシンケンレッドを脅すが、そんなものに怯む丈瑠ではない。シンケンレッドはアヤカシを馬鹿にしたように、少しだけ見上げると、そのまま、ぐいぐいとアヤカシの身体に烈火大斬刀を押し込み始めた。シンケンレッドの背中への触手の攻撃も激しさを増していく。
「く、くそう!!ナナシ連中!出あえ!」
 著しいダメージを受けているにも関わらず、一向に引こうとしないシンケンレッドに痺れを切らしたアヤカシは、ついにナナシを呼んだ。その途端、枝垂れ桜の幹の洞から、ナナシがぞくぞくと湧きでてくる。
「っつ!」
 千年の霊力のせいか、ナナシの数も最近の戦闘と比較して多かった。さすがにこれには、丈瑠も耐えきれないと踏んだ。仕方なく、シンケンレッドは
「はぁぁぁぁぁぁーーー」
 という気合いと共に、烈火大斬刀をアヤカシから引き抜き、シンケンマルに戻すと、目の前に迫るナナシを数十匹斬り倒した。と同時に、大きく後ろに飛んで、アヤカシとの間合いを一旦切った。






「もっと遠くまで後退して、そこで待機していろ!それから、あの女の人を、どこか危険のない場所に移動させておくんだ」
 黒子の近くまで戻った丈瑠は、横目でアヤカシを捉えながら、黒子に改めて指示を出した。黒子が不安そうにシンケンレッドを見上げる。今までになく巨大な一の目に対して、シンケンレッドだけで、どう闘うのか。そのシンケンレッドを置いて、遠くに控えていられるのか。そのような黒子の不安を払拭するように、シンケンレッドは力強く頷いた。

「ぐおおおおおおーーーー」
 その時、アヤカシの方から雄叫びが上がる。シンケンレッドが振り返ると、アヤカシが枝垂れ桜の最後の霊力までを絞り取り、それと共に身体を大きく変形させていた。枝垂れ桜の樹を全て体内に取り込み、上へ横へと大きく幹も、枝や触手も伸ばす。それに伴い、先ほどシンケンレッドが烈火大斬刀でアヤカシに与えた、体躯中央のダメージ箇所が修復して行く。
「………一筋縄ではいきそうもないな」
 丈瑠はそう呟くと、インロウマルを取り出した。それにスーパーディクスをセットする。
『スーパーディスク!』
 その音声と共に、シンケンレッドが白い上着を纏いスーパーシンケンレッドになった。次にシンケンマルに、スーパーディスクとインロウマルを付けて、インロウマルに獅子ディスクをセットする。
「とりあえず、モウギュウバズーカも」
 丈瑠はそう言うと、黒子からモウギュウバズーカを受け取る。右手にスーパーシンケンマル、左手にモウギュウバズーカを抱いたシンケンレッドは、アヤカシへと歩みだしながら、
「モウギュウバズーカの所定距離より外までは、絶対に下がっていろ!」
 と、黒子に指示を出した。



 


「げええ。何だよ、あれ!!」
 走りながら、千明が叫んだ。黒子に案内されて来た桜の園。その丘の上から、不気味な雄叫びが聞こえたかと思ったら、そこに樹の化け物のようなモノが、天に向かってにょきにょきと伸びて行く。
「………大きいな。あれは………二の目なのか?」
 流ノ介も走りながら、目を疑う。
「そうなんじゃねえの?二の目にしちゃ小さいけど、一の目であのサイズはないでしょ………ってか、あいつもう、真っ赤じゃんか!」
 言いながら千明も不安になって来る。
「丈瑠………この二ヶ月、ずっとあんなのと一人で闘ってきたのかよ」
 しかしそれに流ノ介からの返答はなかった。千明が並走する流ノ介を見ると、流ノ介が唇を噛みしめていた。
「………流ノ介?」
 流ノ介はそこで、小さく首を振った。
「………ったく!!」
「え!?何?」
 流ノ介の呟きが聞こえなかった千明が問い返すと、流ノ介が怖い顔で千明を睨んだ。
「全く、しょうがない!!と言ったんだ!!」
 珍しく流ノ介が本気で怒鳴る。
「え?」
 流ノ介に怒られたと思った千明が、思わず走っていた足を止めると、流ノ介の眉がますます吊りあがった。
「止まるな!早く殿の所に行かねば!!」
「でも今、お前が………」
 それでも止まってしまう千明。千明より前まで進んでいた流ノ介が、仕方ないと言う顔で、千明のもとまで戻って来る。そして千明の腕を乱暴にとると、千明を引っ張るようにして、再び駆け出した。
「おい!だからお前、何怒っているんだよ」
 流ノ介に引っ張られながら走る千明。
「俺、また何かしたっけか?いや、何か口滑らした?」
 それに流ノ介が、忌々しそうに呟く。
「お前に怒っているんじゃない!」
「え!?」
「殿にだ!!」
 千明が目を見開いた。それを見た流ノ介が千明の腕を外す。そこからは二人で別々に走りだす。
「………丈瑠に………か」
「当り前だ!!」
 走りながら、丘の上のとんでもないアヤカシを流ノ介は見つめる。
「どうして殿は、ああなんだ!!」
 流ノ介の悔しそうな顔。その横顔を見つめながら千明も思う。
「………そ、だな」

 ここに来るまでの間に、流ノ介と千明は、黒子から最近の外道衆事情を聞いていた。
 ドウコクが倒れた後も、それなりに丈瑠は出陣をしていた。黒子や彦馬を伴ってのものだったが、それでも戦闘員としては、丈瑠しかいない闘いだ。そして、それはナナシだけが相手ではなく、半分以上の出陣でアヤカシがいたと言うのだ。
 それを聞いた流ノ介と千明が、どんな思いを抱いたか。そして丈瑠が一人で闘ってきたアヤカシは、どれほどの強さなのか。ドウコクがいない今、ナナシに毛が生えた程度のアヤカシなのか。そうであって欲しいと思ってここまで来た二人。そして目の当りにしたのが、目の前のアヤカシだ。

「あんなのと一人で闘って、それで殿の身に何かあったら、どうするつもりなんだ!我々のことを心配して闘いから遠ざけるより先に、することがあるだろう!!」
 常の流ノ介らしくない乱暴な言い様に、千明は驚かされっぱなしだ。
「あの、流ノ介?」
 千明が怒り心頭の流ノ介に声を掛ける。
「何だ!!」
 整った顔の流ノ介が怒ると、こんなに怖いのかという顔を向けられて、思わず千明が肩をすくめた。
「いや………今の、誰に向かって言ってんのかなって思って。彦馬の爺さん?それなら爺さんは、丈瑠に」
「殿に決まっているだろーが!!」
 流ノ介の怒声が響く。
「あ。あ、ああ、そうだよね。丈瑠に………だよね。はは」
「あれが今のアヤカシと言うのなら、ドウコクの時より闘いが楽になったなどということはないだろう!それを殿は!!」

 血が出そうなほどに、唇を噛みしめる流ノ介。それを見た千明も、哀しくなって来る。これほどに丈瑠を思う人がいるのに。彦馬や黒子や、そして自分を含めて、たくさんいるのに。丈瑠にはその思いが届かない。
 丈瑠は、流ノ介や千明のことを思っているつもりなのだろうが、それは違うと流ノ介も千明も言いたかった。でも、それを丈瑠に理解してもらうのは、至難の技のような気がする。
 まさかアヤカシを前にして、丈瑠と流ノ介のバトルが始まるとは思わないが、それでも面倒なことになりそうだと千明は思った。

「やっぱり丈瑠は、馬鹿殿なんだろうなあ」
 走りながら小さく呟いたつもりだったが、ふと横を向くと、流ノ介が複雑な顔を千明に向けていた。
「あ………」
 思わず口に手をやる千明。そんな千明を流ノ介は、目を細めて見る。
 だんだん近づいてくるアヤカシのいる丘を前にして、流ノ介がため息をついた。
「それでも、私の生涯でただ一人、私が殿と見込んだお方だ。絶対に守り通さねばならない方なんだ」
 千明がそれに頷くと、それきり流ノ介は、黙り込んだ。二人はアヤカシのいる丘へ、そしてそこで独り闘っているのであろう丈瑠の許へと、ひたすら急いだ。

















小説  次話






『帰って来た侍戦隊 シンケンジャー 特別幕』DVD
6/21日(月)発売………だそうですけれど、
すでに6/18(金) 15:00には、家に届いていました♪
そのために早く会社帰って来た私も………A^^;)

お話は、とってもおもしろかったですよ♪
金曜日、すでに5回以上、殿の最後の拗ねてるシーンだけなら
10回以上も見てしまった私です。
まだ手に入れていない方は、すぐにお店にGO!!
(って、発売日前だけど、売ってるのかな??)

これで、新作のお話は最後………ということらしいので
(でもVSゴセイジャーは、どうなるのかな?)
6/21までの三日間、勝手に記念祭りを開催します♪

三日間連続UP♪
できるかな〜 A^^;)?
ま、勢いの月餅ですので、なんとかクリア目指します(^^) 
むしろ、その後の息切れが怖いかも!?

2010.06.19