志葉家ver

我が征くは星の大河 7











 日暮れにはまだ間があるが、それでも傾きかけてきた陽射しの中に二人はいた。
 志葉屋敷の中を、庭の奥に向かって歩いて行く流ノ介と源太だ。
 源太の手には、もちろんダイゴヨウもあった。

「能楽堂………ねぇ。ここん家、そんなのも、あったんだな」
 源太が、志葉家の広大すぎる屋敷に、半分呆れた風に呟く。それに、流ノ介は頷いた。
「私も、父から話には聞いていた。何か催しが行われる度に、その能楽堂で、代々のシンケンブルーが舞を披露していたそうだ。だからそれに倣って、私もいつか必ず、そこで舞いたいものだと思っていた」
「へぇ?」
 感慨深そうな流ノ介を、源太は眩しそうに見つめる。
「代々のシンケンブルー………ねぇ。とすると三百年はないにしても、ずいぶんと由緒ありそうな能楽堂だな」
 顎に手を当てて、独り頷く源太に、流ノ介も目を細める。
「ああ。志葉家代々の殿と家臣の交流の場と言ってもいいらしい。とは言うものの、私はそれがどこにあるのか知らないんだがな」
「なるほどねぇ」
 源太が、ほんの少し顔を曇らせたように見えた。
「私たちの代では、能楽堂で舞などと、そんな余裕はなかったからな。殿に初めてお会いして、それからすぐに怒涛の戦闘になだれ込んだし。とは言うものの、そういう機会を全く作れなかったのかというと、そうでもなかったようにも思うのだが………な」
 さも残念そうに呟く流ノ介に、源太がため息をつく。
「そりゃ、志葉のホンモノの殿さまの時代とは、違うだろ。仕方ないさ。丈ちゃんとは、これから、そういう時間を作って行けばいいんじゃないか」






 源太の言葉は、流ノ介への慰めなのだろうか。しかし、さりげなく発せられた、その言葉に、流ノ介の足が固まる。
「………えっ」
 その上、あまりにもさりげなかったので、流ノ介自身、自分が何に固まったのか、一瞬わからないほどだった。
「ホンモノ………」
 自ら、オウム返しそうになった流ノ介は、そこで気付き、次の言葉を呑み込む。あれから一年経とうとも、流ノ介にとっては禁忌に近い言葉を、ことも無げに放つ源太を、流ノ介は呆然と見つめた。
「丈ちゃん、お前らに会うの、怖かっただろうからな」
 しかし、そんな流ノ介の様子に気づくこともなく話す源太の視線は、宙を彷徨っている。
「丈ちゃん、子供の頃から、かなりの臆病だったしなぁ。今だって、そういうところは、基本変わってねぇだろ。だから爺ちゃんが、お前らを無理やり招集しちまうその時まで、ぎりぎり我慢して、独りで闘ってたんだろうし」
 源太の脳裏には、幼い丈瑠の姿でも映っているのだろうか。まるで、それが判っていたから、自分は独り闘っているだろう丈瑠のもとに駆け付けたのだと言わんばかりの源太の言葉。
「例え、闘いの度に傷だらけになろうとも、丈ちゃんにとっちゃ、おまえらと一緒に闘うより、そっちの方が楽だったんだろうからな。闘いが本格化する前に、お前らに会おうなんて、思う訳ない」
「………」
 流ノ介は思わず、源太を凝視した。
「まして、闘いの最中(さなか)での家臣との交流なんて、丈ちゃんには考えもつかなかっただろ。そもそも丈ちゃんは、お前らを自分の家臣だなんて思ってなかったんだし。志葉家の殿さまのふりしてることで、お前らに強烈な負い目はあるし。それでも、殿、シンケンレッドって言って、お前らを統率し、時にはしかりとばさなきゃ、ならなかったんだし」
 今までの経緯を考えれば、当たり前すぎる源太の考察。しかし、流ノ介は今更ながら、その事実に衝撃を受けた。
「辛れぇよなぁ」
 しみじみと語る源太の話に、流ノ介はいたたまれなくなる。流ノ介の脳裏に蘇る丈瑠は、今から思えば、本当に源太の言うままだったかも知れない。

 志葉家の先代からの秘策を達成するために、つき続けなければならない嘘。
 丈瑠を信じて、命を差し出してくる志葉家の家臣たちに、真実をぶちまけてしまいたいという想い。

 背反する二つの事柄を、どうすることもできず、自らの気持ちを無理やりにも押し込めるしかなかったのだろう丈瑠。そうした後、丈瑠に残ったのは、志葉家の当主として、シンケンレッドとして、その責務を操り人形のように果たすことだけ。
「そりゃ、闘い以外では、なるべく家臣とは離れていたいと思うよな」
 闘いが苦しくなればなるほど、本当は、もっとずっと、侍たちを、いや、流ノ介―丈瑠に拮抗するほどの実力を持った唯一の侍―を、頼りたかっただろう。戦闘だけではなく、精神的にも頼りたかったに違いない。
 でも、丈瑠はできなかった。
 そもそもの出会いから、嘘の関係でしかなかったのだから。
 それを知った時、流ノ介がどれほど傷つき、丈瑠から離れて行くかが、丈瑠には見えていたから。
 丈瑠の秘密を知る彦馬と、丈瑠の秘密など意にも介さないだろう源太。この二人だけが、丈瑠の今にも崩れ落ちそうな心を支えていたのだ。

 さりげなく話す源太だったが、流ノ介の受けている衝撃は、きっと判っているに違いない。
「だから爺ちゃんも、殿と家臣の交流とか、そういう場をあまり設けなかったんじゃないか?丈ちゃんと俺らの様子を見ながら、少しずつ自然の成り行きで………って感じだったろ?爺ちゃんのやり方」

 丈瑠と侍が出会って以降、彦馬はどこまでも、丈瑠と侍たちの間で仲を取り持とうとしていた。流ノ介はそれを、殿に仕える爺としての役割と捉えていた。
 しかし確かに、源太が仲間に加わって以降、丈瑠と侍たちの間の微妙なバランスが変わり始める。その時々で、彦馬は細心の注意を払って、丈瑠と流ノ介たちの間に立っていた。
 歴代の当主が、家臣との交流に設けてきた催し。本当は、彦馬もそういうものをやりたかったのかも知れない。でも、できなかった。丈瑠の心と、流ノ介たちの丈瑠への想いと、ドウコクとの闘い。どれをとっても、不安定で、不確定要素ばかりで、先が見えなかったのだから。
 だから、せめて正月くらいはと、滅多にない宴を許可したのだろうか。しかし楽しいはずの宴は、その直後に暗転した。

 シンケンブルー。
 シンケンジャーの中でも、シンケンレッドに続くナンバー2の座を、常に占めてきた侍。
 そして、最も忠義に篤い家臣。池波家では、代々、志葉の当主のためになら、命を捧げることも厭うなと、教え込まれて来た。
 その池波家の流ノ介が、丈瑠の秘密を知った時、一番迷い、動けなくなった。

 彦馬はそうなることを見抜いていたのだろう。だからこそ、丈瑠と同様に、侍たちの中に、もう一歩踏み込めなかった。流ノ介たちを信頼して、事前に真実を話すことができなかった。

 一年前の、丈瑠が影武者と知れた時、千明は悔しそうに呟いていた。
「(影武者だってことを事前に)言ってくれりゃあ、良かったんだよ!!」
 だが………

 流ノ介は、背筋が寒くなる思いで、あの時の自分を思い出す。


 あの時、自分は何を思った?
 もしも、事前にその事実を告げられていたら………自分はどうなっていた?
 もしかしたら………もしかしたら………丈瑠を志葉家当主とはとても認められなくなっていただろう。
 丈瑠を、志葉家当主の影武者としてしか見ることができず、それはきっと、シンケンジャーとしての信頼関係になんらかの影響を及ぼし、闘いにも響いてきたはず。

 そうなのだ。
 もしかしたら。いや、もしかしなくても。
 丈瑠が、自らが影武者であることを言えなかったのも。
 歴代の当主がやってきたような、家臣との交流の場を、彦馬が設けられなかったのも。
 全ては自分のせいなのではないか。
 それは、事実を告げたら、シンケンジャーのまとめ役、要とも言うべきシンケンブルーが、要とならなくなることを予見したから。殿と家臣という関係が崩れた状態での、ドウコクとの闘いなど、勝てるはずもないと考えたから。






「お?あれかな、能楽堂って」
 高台のひらけた場所に出たところで、源太が顔を上げた。流ノ介も、暗い気持ちを払うように、そちらに顔を向ける。
「ああ。きっとそうだ。この林の向こう側にあるそうだから………」
 流ノ介は努めて明るい声でそう言うと、高い身長をさらに背伸びして、はるか彼方を見つめた。林の陰から、大きな屋根が見えた。
「どうやら、あちらの方向のようだな」
 流ノ介が、あたりをつけた方向に向かって、小路を折れた。しかしその小路は、鬱蒼と樹が生い茂る林の中に続いていた。


 あまりに広大な志葉屋敷。
 その奥まった場所にあるという能楽堂。
 そこに行けと、彦馬に言われた二人だったが、いろいろな意味で、その先行きに、微かな不安を覚え始めた二人だった。


 しばらく歩くと、能楽堂に続くはずの小路は、いつの間にか路ですらなくなっていた。
「千明が能楽堂で何か計画しているので、協力してやってくれ………と彦馬さんが仰っていたな」
 立ち木の枝を払いながら、流ノ介が呟く。
「ああ。丈ちゃんも一緒にいるはず………って、なんだろうな」
 源太も同様に、鬱蒼とした木々から垂れ下がる蔓を、ダイゴヨウを持っていない右手で避ける。足元は既に、けもの道すらない状態だ。歩けば歩くほど、道は険しく、木々は行き先を阻むようになってくる。

 志葉家十七代目当主が亡くなってから十八年。丈瑠の代以降、使われることのなかった能楽堂。そうであれば、能楽堂への道がこれほど荒れているのも、頷けるような気は………いや、それとも………?

 思わず源太は、先を進む流ノ介の背中を見つめる。
 流ノ介に道案内を任せたのが、そもそもの間違いなのか?ここまで鬱蒼としてくると、志葉家の庭の中での遭難という、笑えない事態になる可能性もゼロではないかも知れない。流ノ介の後をただ付いて行ったのなら………
 源太がそう思った瞬間、前を歩く流ノ介が口を開いた。
「しかし、千明の計画に協力しろとは、彦馬さんも意外なことを言われると思わないか?千明のたてた計画、と聞いただけで、ろくなものではない気がするが………」
 流ノ介の言葉に、源太の足は枯れ草の上を滑り、あやうく尻餅をつきそうになった。
「………なんだ?」
 不審そうな顔で振り返る流ノ介。
「い、いや。流ノ介がたてる計画の方が、よっぽど変じゃないかという気も………」
 そこまで言いかけた源太が、はっとして口を塞いだ。先ほど河原で、ダイゴヨウに言われたばかりではないか。
『もう少し考えてモノ言って下せぇ』
 と。
「いや、ははは。何でもねぇよ。なっ、ダイゴヨウ!!」
 明るく誤魔化したつもりで、源太はダイゴヨウに話しかける。そう言えば、先ほどからダイゴヨウが大人しい。そう思って覗き込んだが、ダイゴヨウからは何の反応もなかった。思わず源太の足が止まる。
 源太より先に数歩進んだところで、流ノ介も源太を振り返った。
「源太?」
 源太は、手にしたダイゴヨウを凝視していた。

「どうした、源太」
 返事をしない源太に不信を感じた流ノ介が、源太の傍まで戻って来る。
「源太、何なんだ?」
 覗き込んだ源太の手元では、ダイゴヨウが小刻みに震えていた。それは、流ノ介の目には、まるで寒さに震えているように見えた。
「………なんだ?風邪でもひいたか?熱があるんじゃないのか?」
 先ほどからの暗い心を誤魔化すように軽口を叩く。
「そうかもしんねぇ」
 しかし、流ノ介の冗談に、源太は振り向きもせずに答えた。
「………はぁ?」
 真面目に返されて戸惑う流ノ介に構わず、源太は首を捻る。
「またフリーズしやがった。オーバーヒートもしてるし。こいつ、ここんとこ何日か、どうもおかしいんだ」
 源太は、両手でダイゴヨウを抱き込んで、様子をうかがう。
「先ほどはそうでもなかったようだが?」
 河原でのダイゴヨウの様子を思い出す流ノ介だったが、源太の顔は晴れない。何か思い当たることがあるのか、唇を噛みしめる。
「実はブレドランの闘いの後、あのデータスとかいう奴を参考にして、ダイゴヨウに機能をいくつか追加したんだけど………それが拙かったのかも知れねえ」
 心配そうな源太の表情に、流ノ介も眉を寄せた。
「どんな機能を追加したんだ?」
 源太は、ダイゴヨウの様子を観察しながら、忌々しそうに頭を掻く。
「あのデータスってロボは、ゴセイジャーの闘いをサポートするモノなんだが」
 ゴセイジャーという単語が出た瞬間、流ノ介が聞きたくもないという顔で、源太を睨んだ。
「データスは、地球上のあらゆる気象や台地の振動、海流などの状況をスキャンして、この地球におかしな動きがないかサーチしているんだ」
 しかし源太は、流ノ介の顔色など見ていない。
「それをダイゴヨウにも装備したのか?」
 仕方なく相槌を打つ流ノ介に、源太は頷く。
「まずは大気や電磁波の乱れとか、宇宙線の状況とか。そういうのを衛星やら、気象庁やら、場合によってはNASAやらJAXA、世界中の天文台からも情報吸い上げて、演算する機能を付けてみたんだ」
「なるほど。大層な機能を追加したものだな。そりゃ、初期不良もあるだろう」
 肩をすくめるだけで終わらそうとする流ノ介に、源太は納得できないという顔を向けた。






 源太に軽く応えた流ノ介。しかし、源太の言う追加機能が、とてつもないものだろうことは、文系の流ノ介にも想像はついていた。
 流ノ介とは全く別の次元に生き、様々なものを軽々と造り出していく源太。その在り様は、本来の志葉家の関係者とは、かけ離れており、やはり侍とは全く異なると言っていいだろう。
 しかし、源太のような存在が、偶然にも丈瑠の傍にいたからこそ、シンケンジャー長年の夢だったインロウマルも完成させられた。新しい折神として、海老折神も生み出せた。それに伴う侍巨人のバリエーションも増えた。
 源太がいなければ、ドウコクとの最終決戦の前に、十七代目当主の時代と同じく、シンケンジャーは崩壊していたかも知れない。源太は、志葉家の家臣でないにも関わらず、今やシンケンジャーになくてはならない存在なのだ。
 シンケンジャーのナンバー2を自認し、生粋の志葉家家臣である流ノ介からすれば、情けないことこの上ない話だが、これは真実だし、他のシンケンメンバーにも異議を唱える者はいないだろう。

 志葉家当主の影武者に選ばれたのが丈瑠だったからこそ、源太はシンケンジャーの一員として活躍してくれた。
 それでは、丈瑠が志葉家に入っていなければ………
 源太がシンケンジャーの一員になってくれていなかったら………
 ドウコクは?
 この世の平和は?
 そして、志葉家とシンケンジャーは?
 どうなっていたのだろうか?

「殿が志葉家に入って下さったことも、源太が殿を慕って自らシンケンジャーになってくれたことも、全ては偶然。それがたまたま重なって、全てが良い方向にが動いた………から、外道衆を倒すことができた、ということなのか?」
 あの闘いは、偶然の果ての勝利。そういうものだったのだろうか?

 ダイゴヨウを心配して不安いっぱいの源太の横で、またしても、別の問題で考え込んでしまう流ノ介だった。






「だけど、なぁ?」
 源太の不安そうな声に、流ノ介が我に返る。
「追加したのって、情報処理系でしかなくて、壊れるような機能じゃないはずなんだ。でも、それ追加してから、時々おかしくなるんだよなぁ」
「………その、参考にした先がデータスというのが、失敗だったんじゃないのか?」
 いくら何でも、いきなり護星界の御使いであるデータスと同じ機能を、というのは、少し欲張りすぎたかもしれない。護星界とやらがどんな世界なのか、流ノ介にはさっぱりわからなかったが、彼らが宇宙のどこかから、あるいは、どこか違う次元の世界から、地球にやって来ているのだとしたら、彼らが地球の文明を凌駕した科学力を持っていると考えてもいいだろう。
「いくらなんでも、一足飛びに行きすぎた。そうなるとダイゴヨウだけが、いきなりSFの世界だぞ」
 流ノ介にとって、モヂカラや折神は超常力ではあっても科学力ではないと考えているので、こういう発言になる。
「んーー?そうなのかなぁ」
 しかし源太にとっては、シンケンジャーのモヂカラや折神も、ゴセイジャーが扱う力やメカも、等しく同じ自然の力−科学力−に見えるらしかった。
「まあ、いいや。今日帰ったら、ちょっとダイゴヨウの中のデータ見てみっか」
 源太がそこまで言った時、突然、ダイゴヨウが源太の腕の中でもがき始めた。
「お?」
 目を見開く源太の前に、ダイゴヨウが飛び上がる。
「お、親分、何してんです?あれ?ここ、どこっスか?」
 能天気なダイゴヨウの言葉に、源太はほっとしつつも、頬を膨らませる。
「何って、お前がおかしいから、俺はなぁ………」
 しかし言い終わらない内に、ダイゴヨウが反論した。
「は?何を言ってるんです、親分。おいらはおかしくなんかありませんぜ。必死で計算していただけで」
 平然と言い放つダイゴヨウに、再び源太は目を見開いた。
「計算?計算って………何をだ?」
「いや………何かはわかりませんけど………」
 瞬時に答えが返ってくるのは、いつものダイゴヨウらしくていいのだが、その内容はあまりに間が抜けている。
「はぁ?何かもわからないものを、計算していただぁ?」
 馬鹿か、お前!!
 そう源太が怒鳴る前に、間髪いれずにダイゴヨウがまたも口をはさむ。
「そうなんすよね?何かわからないんですけど、計算しなくちゃって気がして、計算してたんスよ」
「それで、処理能力が全部そっちに使われちまって、お前、おかしくなっていたのか?」
「そうかも知れないスね。いや、何だか、どうしてもそっちを、おいら優先したくて」
「あのなぁ。何を優先しようが、お前の勝手っちゃあ勝手だが、他の機能、全停止ってのは、マズイだろ!」
 けんかっ早い江戸っ子二人の漫才のような会話に、こちらも生粋の江戸っ子であるはずの流ノ介が、付いて行けない。
 しかし、そこで、ダイゴヨウが言い淀んだ。
「………そうっスよね。でも………どうしても、計算を優先しなきゃいけない気がして………何でだろう」
 源太が唇を尖らせつつも
「それで?計算の結果って、何が出たんだ?」
 と聞くと
「いえ。まだ何も」
 とダイゴヨウが答えた。これには、源太だけでなく、流ノ介も驚く。
「はああ?そんだけ計算して、何もでないのかよ?」
「いや、そうなんスけど、それが変というか………かなり変なんス」
「何が変なんだよ!」
「いや、ですから、それがわからないと言うか………」
 睨みあう源太とダイゴヨウ。
 その後ろで、流ノ介がため息をついた。
「源太。やはり追加機能は、失敗だったようだな」
 





「何してるのよ、あんたたち!」
 突然、あらぬ方向から声を掛けられて、ダイゴヨウと源太がびくりと飛び上がる。流ノ介も怪訝な顔で、声のした方向を見つめた。

 鬱蒼とした林の木々の向こうに、明るい場所が見えた。
 その、若干、見下ろすようになっている場所に立つ、二つの人影。
 すらりとしたスタイルの髪の長い美女と、その横には、かわいらしい笑顔の少女。シンケンレッド、ブルーに続く、実力ナンバー3を誇るシンケンピンクの白石茉子と、現シンケンメンバーの中では一番年下ながら、強い精神力と剣の腕を備えたシンケンイエローの花織ことはだった。

「茉子!?ことはも!?」
 一週間前にも会っていたとはいえ、それは戦闘中のこと。改めて見る、一年前と変わることのない懐かしい顔に、思わず流ノ介の声が上擦り、源太の顔が緩む。
 自然と足早になった流ノ介と源太は、木々をかき分け、人の背丈より高い段差を飛び降り、茉子とことはのいる場所へと出た。
「茉子ぉ〜」
「ことはちゃん〜」
 満面の笑みに嬉しさが滲む流ノ介と源太だったが、茉子は何故か、酷薄な笑みで彼らを迎えた。
「流さん!それに源さんも〜!!いやぁ、嬉しいわぁ」
 そんな茉子の横で、ことはが、こちらは、真に無邪気な笑顔を向けてくる。
「あ?でも………」
 けれど、ことはは無邪気なだけに、いつも鋭く芯を突いてくる。
「二人ともなんで、そんな藪から出て来はったんですか?」
「え?………藪?」
 ことはに言われて、流ノ介と源太が振り返ると、確かに二人が出てきたのは、藪と言ってもいいような場所だった。
「お散歩してはったん?でも、こんな歩きにくそうな場所をわざわざ………」
 不思議そうに呟くことはに、茉子がにやりと嘲笑する。
「わざわざ、なのよね。歩きたかったんでしょ。お屋敷から、ちゃんとした路があるのに、ね!」
「えっ?ちゃんとした路!?」
 茉子の嫌みな物言いに、流ノ介が慌てて左右を見回す。
 茉子とことはが歩いてきた路は、石で縁取りされ、きれいに整備された、歩きやすそうな路だった。
「流さんたちも、彦馬さんに能楽堂行くよう、言われはったんですよね?殿さまと千明が待ってるって。それなのに、何でお散歩なんかしてはる………」
 ことはが、首を傾げる。
「あ、あのね、ことはちゃん」
 取り繕おうとする源太の努力もむなしく、
「あ、もしかして、流さん達、迷子だったん!?」
 ことはは、回答に辿り着くと同時に、大げさに驚く。
「ええ!?殿さまのお庭でぇ!?いややわぁ」
 これが演技でないところが、ことはの凄いところだ。
「え?い、いや、ことは。そんなことはあるはず………」
 流ノ介も、否定しようとするが、
「あるのよね。自分が仕える殿さまのお屋敷の庭で迷うなんて、さすが流ノ介。普通の人間では、あり得ないわ!!」
 と、茉子に断定されてしまうのだった。
「はあ。確かに流さん以外では、あり得ないかも」
 そして、ことはに止めを刺されて、思わずそこに蹲ってしまう流ノ介だった。











小説  次話






前をUPしてから、またも一ヶ月以上
経ってしまいました………A^^;)

03.11震災に続く、大きなニュースが昨日ありました。
オハマ・ビンラディンをアメリカが殺害。
世界がまだ、バランスを崩すかも?


2011.05.03