志葉家ver

我が征くは星の大河 9











「えーーーっと。まず最初に言っとくけど、これは既に爺さんの許可も貰っている計画だから、みんなは真面目に俺の指示に従うように………」
 そこで千明は、流ノ介にぎろっと睨まれた。しかし千明は、それを見なかったことにする。
「え、えっと………やる場所は、ここ、能楽堂の舞台を使う。それで、肝心の俺が演ろうと思っている計画の詳細に移るけど………」

 能楽堂の舞台の上に、きれいに一列に正座する、流ノ介、茉子、ことは。その横にあぐらをかく源太。
 彼らの前で、千明がまず、そう告げた。
 ちなみに、千明の斜め後ろには、腕組みをした丈瑠が立っていた。その顔は千明には見えなかったが、不機嫌オーラ全開なのが、あまりにもあからさまだった。さすがの千明も背中に重いものを感じて、首が凝るのか、しきりに首筋に手をやる。額から滲んでいるのは、脂汗か。

「て言うか、何をするのか知らないけれど、丈瑠は反対しているんじゃないの?その、いつに増しても酷い仏頂面からして」
 茉子が最初に口火を切った。
「そうだよ、丈ちゃん!何だか知らないけど、そんな不機嫌そうな顔でそこに立たれていると、こっちまで気分が悪くなるから、どうにかしてくれ!」
 源太は、千明の後ろの丈瑠に抗議する。しかしその抗議に、丈瑠は、何故、俺にそれを言う!?という表情を一瞬した後、頬を膨らまし、口をへの字に曲げて、ツンと横を向いてしまった。
「殿さま?千明の計画がお気に召さへんのですか?でも、計画って、何?」
 ことはが、久々に見る丈瑠の大人げない仕草に、笑いを噛みしめる。
 そんな侍たちのざわめきを、
「待て!みんな!!」
 と、一瞬にして鎮めたのは、流ノ介だった。さすがは、シンケンジャーナンバー2の座にいる侍、とでも言おうか。
「殿が気のりされないことなら、私は、計画を中止すべきだと思う!!」
 流ノ介は腕組みをすると、目を瞑った。まるで黙想するような格好で
「つまり、千明の計画の内容など、聞く必要はないということだ!」
 と、断じる流ノ介。

 しかし、鎮まったのは、その一瞬でしかなかった。次の瞬間
「ちょっと待ってよ」
 流ノ介の脇腹を、隣に座る茉子が、肘でど突いた。これくらいしないと、流ノ介には通用しないのである。
「っ痛!」
 思わず目を開けて、茉子の反対側に倒れ込む流ノ介に、茉子も身体の向きを変える。
「何やるのかは知らないけど、彦馬さんからは許可を頂いているんでしょ。話も聞かない内に、止める!は、ないんじゃない?」
「なんだか楽しそうな気がするから、うちも話くらいは聞いても良いと思います」
 ことはが右手を上げて、小学生のように発言した。
「そうだ、そうだ!よくわかんないけど、おもしろそうな話なら、俺ものるぜ!そのために、ここまで来たんだからな」
 源太も拳を突き上げて、千明の話を切ろうとする流ノ介に異議を唱える。
 しかし、こんなことで、流ノ介は怯まない。勝手に騒ぎ立てる侍たちを、流ノ介は再び、じろりと睨んだ。
「と〜の〜が!!お嫌だと申されている以上、どんな計画であろうと、志葉家家臣が加担する訳にはいかない!」
 強硬な態度を示す流ノ介。
「そんな殿のご意思に背くと言うのなら、あ奴は」
 流ノ介はそう言うと、千明を指差した。
「反逆者も同然!」
 ドンッ!!
 床面が一瞬たわむかと思うような勢いで、茉子が、舞台の板間を拳で叩いた。
「何言ってるのよ、流ノ介!そんなの横暴じゃない!?」
 一年前よりも増しているかもしれない茉子の迫力。
「戦闘中でもないのに、勝手に流ノ介が仕切らないで欲しいわ!」
「あ!い、いや、私が仕切るというよりだな。私は殿のご意向を、みなに伝えているだけで………」
「さっき、舞台の向こう側で、丈瑠とどんな話を付けてきたのかは知らないけどね!」
 茉子はそう言うと、流ノ介から、千明の後ろにいる丈瑠にも、鋭い視線を走らせた。それに、びくりと丈瑠が縮みあがる。茉子の追及の矛先が自分にも来そうで、思わず、後ろに一歩引いてしまう丈瑠だった。
「………えっ?あ、いや………そんなことは、何も………」
 嘘をつけない流ノ介も、しどろもどろになってしまう。茉子は、丈瑠から流ノ介に視線を戻すと、もう一度、流ノ介を睨みつけた。
「だいたい丈瑠は、慣れていないことはなんだって嫌がるんだから、何かしようと思ったら、丈瑠の意見なんか聞いていられないのよ!」
 茉子の勢いに、目をぱちくりさせるしかない流ノ介だったが、すぐに平静な顔に戻ると
「お、横暴ではない!殿の家臣として当然の行動だ」
 と、またも叫ぶ。
 その横で、だんだん激化する騒ぎに、恐怖を感じ始めた丈瑠だった。

 ドウコクを倒してからのこの一年間は、たいていは独りで、たまに千明や流ノ介を伴って、外道衆と闘うくらいで、丈瑠は、比較的平穏な毎日を過ごしてきた。
 もちろん、日々の悩みはいろいろあったし、それはそれで苦しい時も多かったが、こういう騒々しい面倒事に巻き込まれることだけはなかった。
 何しろ、丈瑠を幼い頃から知っている者ばかりの志葉家。彦馬はもちろん、黒子も、なるべく丈瑠の意に沿うように動いてくれるから、丈瑠が日常生活で不快な想いをすることは殆どなかったのだ。つまり、丈瑠は相変わらず、超箱入りの過保護な生活を送っているということなのだが、本人にそういう自覚はない。
 それなのに、久々にシンケンジャー六人が揃ったら、この、頭が痛くなるような騒がしさ。丈瑠の想像を超えて、勝手なことを叫び、やり始める家臣たち。
 もしかしたら、流ノ介たち侍を招集したばかりの二年前も、こんな感じだったのかも知れない。丈瑠はそう思い、その頃のことを思い出そうとするが、あの時でも、ここまで酷くはなかったのではないか、とも思えてくる。

「おい!丈ちゃん!何でやるの嫌なんだよ!その上、裏で、流ノ介を懐柔したって本当なのかよ!?」
 いきなり叫ばれて、丈瑠は驚く。
「ってか、その仏頂面、なんとかしろって、さっき言っただろ!」
 と源太に怒鳴られるにあたって、丈瑠も、こんな騒ぎ、やってられるか、という顔になる。
「丈ちゃん!!だから、その顔がダメなんだよ!」
 ついに源太が腰を浮かす。
「源さん、そんな!顔替えろなんて、無理なこと、殿さまに言わはっても………」
 と、ことはが、源太の服の裾を引っ張る

 千明が何も話さない内から、舞台の上は大混戦状態となってしまった。






「はーーい!静かに!静かに!」
 混乱しきった舞台の上。千明が、みなを列に戻そうとする。途端に、流ノ介が噛みついて来た。
「なーにが、静かに!だ」
 流ノ介は立ちあがると、千明の前に歩み出た。
「いいか、千明。そもそもお前が、おかしな計画をたてるから、こんなことになっているんだ。判っているのか!?」
 流ノ介は、千明の胸に指を突き立てる。
「それに!この能楽堂で、お前はなにやら画策しているようだが」
 途端に、顎を上げて、得意げな表情をする流ノ介。
「この能楽堂がどんな場所だか、お前は知っているのか?」
 茉子は呆れ顔で、流ノ介の背中を見上げた。既に流ノ介を止める気力を失った茉子は、あとは千明に任せた、と心の底で呟く。
「は?能楽堂は、能楽堂じゃねぇの?能やるところだろ?歌舞伎やるところじゃねぇけど」
 千明の余計なひと言に、またも流ノ介がむっとした顔をした。しかし、流ノ介は、そんな気持ちを呑み込むと、
「そうだ!しかし、ここはただの能楽堂ではない!!」
 と、千明に告げる。
 流ノ介にとって、シンケンブルーにとって、ここはとても大事な場所なのだ。
 しかし、もちろん千明は、そんな流ノ介の想いを知るはずもなかった。
「何だよ。志葉家の最終秘密兵器でも隠されてるってか?ああ!この能楽堂が変形して侍巨人になるんだ!?」
「そんなこと、あるはずないだろ!!馬鹿!!」
 思わず千明の頭をはたいてしまう流ノ介。
「いってーなぁ。じゃあ、何なんだよ!」
 膨れっ面をする千明に、流ノ介は、説明する。
「この能楽堂はな。代々の志葉家の殿と家臣の、交流の場だったのだ。ある意味、志葉家家臣の、殿への忠義の証の場所であると言ってもいい」
 多少、どこかで流ノ介の思いこみが入った解釈になっていた。
「へえ?」
 しかし千明は一瞬驚いたような顔をした後、それに素直に頷いた。
「そうだったんだ」


「そうだったのか………」
 千明と同時に、同じ言葉が、舞台の端から漏れる。
 これは、興味がない振りをしつつも、流ノ介たちのやりとりを舞台の端から観察していた丈瑠が、こっそり漏らした独りごと。舞台の中央から端に移動した訳は、言わずと知れた、この騒ぎに巻き込まれたくなかったからだ。
 しかし、長く使われることのなかった、この古めかしい能楽堂にまつわる話を聞いたのは、丈瑠も今が初めてだった。
「志葉家の殿と家臣の…交流の場?」
 きっと真実なのだろう、その話。
 流ノ介が誰から聞いてきたのかは知らないが、彦馬はそれを丈瑠には教えてくれなかった。しかし、その理由は明白だろう。丈瑠が志葉家の本当の当主ではなかったから。そのため、志葉家の家臣との交流などできない、やりたくない、と、彦馬ではなく、丈瑠自身が思い込み、そういうこと一切を強硬に拒否してきたから。

 そこまで考えた丈瑠は気付く。
「………まさか………」
 丈瑠が、志葉家の真の当主となった今なら、家臣との交流の宴も開催できると、彦馬は考えたのだろうか。だから千明の計画を聞いた彦馬は、それをこの能楽堂で演るように、千明に指示したのか?歴代の志葉家当主と同じように、丈瑠にも………と?
 ドウコクを倒したとはいえ、今後も、丈瑠と志葉家家臣たちとの付き合いは続いて行く。いや、続かねばならない。それは、ドウコクが死に目に言っていたように、そして薫に志葉屋敷を去る際に頼まれたように、三途の川の隙間は未だ開いているから。三途の川が存在する限り、志葉の当主、シンケンレッドは存在し続けなければならないのだから………
 そして、それを証明するかのような、一週間前の闘い。

 丈瑠は、志葉家十九代目当主、志葉丈瑠という立場から離れることはできない。
 いつか終わるかもしれない仮の当主では、もうないのだ。三途の川までその名が聞こえる、絶対に逃げることのできない、志葉の当主、シンケンレッド。死んでもなお、外道衆の記憶や志葉の記録に刻まれて、後々の世までも連綿と残る。それが今の丈瑠の立場なのだから。

「だったら覚悟を決めて、歴代の当主と同じように、家臣との交流もしろと………」
 そういう彦馬の想いなのだろうか。
 ならば丈瑠は、彦馬の想いも汲み取って、やはり向かい合わねばならないのだろうか。
 千明の考案する馬鹿馬鹿しい計画に。

 流ノ介の言葉ではないが、本当に熱がぶり返してきそうな気がする丈瑠だった。






 舞台の端で独り考え込む丈瑠を余所に、舞台の真中では、まだ千明と流ノ介の言い争いが続いていた。

「それで、殿と家臣の交流の催しがあった折には、代々のシンケンブルーも、ここで殿に、舞を披露して来たのだ」
 胸を張って告げる流ノ介の背中で、
「あーあ。流ノ介は結局、それが言いたかっただけなのね」
 座ったままの茉子が、小声で呟く。
「そのような由緒ある、神聖な舞台で!お前は何をしようと言うんだ!?」
 憧れの舞台の上にいるせいなのか、だんだん、流ノ介の言葉が芝居じみてきて、振りも大げさになって来る。
「かくし芸大会か!?マジックショーか!?漫才か!?はたまたライブか!?」
 呆れ顔の千明を前にしても、流ノ介は止まらない。

 その後ろでは、ことはが、茉子の耳に囁く。
「ライブ?ライブって、何?茉子ちゃん」
 茉子は顎に手を当てて少し考えていたが、
「彦馬さんが許可したとなると、まあ、ロックのコンサートとか、かな?」
 と応える。
「え?ロックコンサート?それって、彦馬さんのバンドが出はるの?やぁ。見てみたいわぁ」
 ことはが、目を輝かした。
「そしたら、うちも、ちょっとでいいから、歌わせてもらえるかな?」
 珍しくも、ことはの積極発言に、茉子が微笑む。
「あ、じゃあ、ぴらぴら服着て、二人で歌っちゃおうか?」
 うんうん、と頷きあう茉子とことは。

「ちがうよ!劇だよ!演劇を演ろうって言ってんだ!ライブじゃねぇ!!」
 茉子とことはの会話を聞いていたかのような、千明の叫びだった。それでも千明は、流ノ介に理解してもらおうと、説明を続けることを止めない。
 どうやら、千明の計画を遂行するための最大の難関は、丈瑠ではなく、この流ノ介らしいと判って来たのだ。この流ノ介に比べれば、丈瑠を言いくるめることなど、たやすいに違いない。
「は!?劇だと!?なんだ?幼稚園なみの出し物か!?ああ。私もやったぞ。幼稚園でも初等部でも、な。キリストの生誕劇だ。私は何故か、いつもマリア様役で………」
 しかし当然のように、流ノ介は聞く耳持たない。
「違うっつーの!!そりゃ稽古の時間も取れないけど、みんなで協力して、青山劇場で舞台にもなった演劇をやりたいんだよ」

 千明と流ノ介の言い争いを見上げながら、源太が屈みこんだまま、茉子とことはの間にこそこそと移動してくる。
「流ノ介って、クリスチャンなのかよ!?俺、あいつのイメージ的に、なんつーか、神道系………とか?」
 源太の素朴な疑問に、茉子が微笑んだ。
「流ノ介は、幼稚園から高校までカソリック系の男子校らしいからねぇ。ずっとミサでマリア様を拝んで来たのだろうけど、別に信仰している宗教とは関係ないんじゃないの?梨園の御曹司とか、政治家の子供とかがよく行ってる、お坊ちゃま学校よ」
「へぇ、そうなん?」
「池波家の男子は、全員、あそこに行くらしいわ。まあ、あの生真面目というか、融通のきかなさ………あれは、厳格なカソリックの学校で養われたものなのかしら………ね。その学校で、ずっと生徒会長やってたらしいしね。さぞかし、つまんなかったでしょうね。流ノ介が生徒会を牛耳っていた間の、その学校の文化祭は………」

 しかし、三人のこそこそ談義など、一切聞こえていない流ノ介。
「は?何が協力だ?何にしろ、私は許さないぞ!そんな下らない出し物を………いや、キリストの生誕劇なら下らなくはないかも知れないが………しかし、ここは能楽堂。そのような異教徒の劇など、この志葉家の神聖な舞台で演るなどということは!!」
 頭の中でのイメージが、どんどん変な方向に行ってしまっている流ノ介は、だんっと足を踏みならすと、見得を切るような振りで、手を前に突き出し、頭をぐるりと回した。
「ぜぇ〜たいに、許せん!!」
 そして、そのままの格好で、ポーズを決めた。

「………流ノ介………お前なぁ」
 千明ががっくりと肩を落とし、嘆くように呟く。果たして、この日本語が通じていないどころか、宇宙人のような発想をする流ノ介を、どのように説得したらいいものか。
「神聖………なのかよ、ここが」
 すると、
「そうですよねっ!?殿っ!!」
 と、流ノ介が、さも嬉しそうに丈瑠に顔を向けた。
「………えっ?」
 舞台の端に突っ立っていた丈瑠は、いきなり話を振られて慌てる。
「あっ。いや………」
 しかし、何をどう答えていいのか。
「ま、まあ………そうだ」
 と、とりあえず腕を組みなおし、威厳あり気に応えると、流ノ介がさも嬉しそうに、千明の方に向き直った。
「ほら。殿もああ仰っている。そういう訳で、お前のアホな計画は、即刻中止だ〜〜〜!!!」

「全く。………面倒くさい奴だなあ」
 千明が大きなため息をつくと、水切れを起こした植物のように、うな垂れた。
「なーーにが、面倒くさいだ!私は、だな。もし、ここで何かをやるとするならば、そのような異教徒の劇などではなく、やはり古来の風習に則り、殿と私たちの交流としての何か、をやるべきかと思うのだ」
「だから俺がやろうとしているのも、丈瑠や俺たちの交流になるだろう?キリスト生誕劇なんか、やらねぇよ!クリスマスでもねぇのに!」
「いいや、とにかくならん。劇では、ならんのだ!!」
 詳細を聞く気もなく、頭ごなしに否定を続ける流ノ介に、千明も苛立ってくる。
「じゃあ、なんだったら、丈瑠と俺らの交流になるって言うんだよ」
 千明と反対に、元気いっぱいの流ノ介。既に会話を聞くのも嫌気がさして来ている茉子とことはの前で、流ノ介は、ただ自分が言いたいことのみを、言いまくる。
「だから、古来の風習に則って………とくれば、これは必然的に、私の踊りなどが、重要な候補のひとつに………」
 これを聞いた瞬間、茉子がことはに小声で話しかけた。
「ほらね。やっぱり流ノ介は、あれが言いたかっただけなのよね」
 しかし、流ノ介のこの言葉に、千明は弾けるように、顔を上げた。
「え?あ、何?そういうこと?」
「なーーにが、そういうこと!だ。そういうことに決まっているだろう!!」
 流ノ介が、意味もなく胸を張る。
「あーーーそういうことか。てか、さ。そんなら、お前、踊るよ。流ノ介のは、そういう役なんだから」
「………はっ?」
 流ノ介が、いきなり固まった。
「だから、今俺が考えているキャストだと、お前は、数少ない踊らなきゃならない役なの」
「………えっ?」
 千明の言葉に、流ノ介は頭が混乱しているようだった。
「ついでに言わせてもらえば、丈瑠はもちろん主役だし。あんまりやることない役だけどね」
 ダメ押しのように千明が付け加えると、流ノ介の目が宙を彷徨った。
「私が踊る?踊れる………のか?私が、ここで?」
 そう言うと、流ノ介はいきなり両腕を広げて、舞台を大きく見渡す。
「殿の前………で?」
 その芝居がかった仕草とうつろな呟きに、千明が訂正を入れる。
「丈瑠の前っていうか、丈瑠は観客席じゃなくて、同じ舞台にいるんだけどな」
 舞台を演じる段になってから、文句を言われてはかなわない。なにしろ、流ノ介は爽やかそうに見えて、かなり粘着質なのだ。やると決まった後でも、何をしでかすかわからない。
 しかし、流ノ介にとっては、その方が嬉しかったらしい。
「殿と?殿と同じ舞台に立てるのか!?」
 うつろだった瞳が、きらきらと輝きだす。流ノ介の動向がいきなり変わりつつあるので、ここでもうひと押しとばかりに、千明がある提案をした。
「まあな。なんなら、流ノ介の踊りの振付は、そっちで勝手に考えてくれてもいいけど………」
 そう言った瞬間
「当り前ではないか!私は踊りのプロだぞ!?私が考えなくて、誰が舞の振りを考える!?」
 流ノ介が叫んだ。すでに、流ノ介の頭の中では、今までの意見と異なるものが、決定事項として刻み込まれたようだった。
 しかし、この発言を聞いた千明は、嫌な予感に襲われる。
「………舞?おいっ!舞ってな!流ノ介、言っとくけど、踊りって言っても歌舞伎じゃないぞ」
 しかし、千明のこの言葉は、既に流ノ介の耳には届いていなかった。
 なにしろ、もう千明の目の前から、流ノ介は消えていなくなっていたのだ。

「え?あれ?流ノ介、どこ………」
 千明がきょろきょろすると、ことはと共に舞台上に両足を投げ出した、くつろぎモードの茉子が、呆れ顔で、舞台の隅を指差す。千明がそこに目をやると、そこには、困惑した顔の丈瑠の前で、派手な手振り身振りをしている流ノ介の姿があった。

「殿!殿!千明には珍しく、素晴らしい計画ではありませんか!?」
 流ノ介は、丈瑠の両腕を取って揺さぶる。
「これこそ、殿と家臣の交流を深めるには絶好の催しです。闘いが一段落し、みなが揃っている今こそ、これをやるべきなのです!!」
 千明が言いたかったことを、勝手に解釈して上で、丈瑠に詰め寄る流ノ介。でも多分、内容は全く理解していないに、違いない。
 流ノ介にひっかきまわされてはたまらないと思った千明が、叫ぶ。
「あーーー流ノ介!お前が言うように、俺のやろうとしているのは、俺らみんなで劇をやろうってことなんだけど」
 丈瑠の腕を掴んだまま、流ノ介が振り返る。
「でも内容は、『銀河英雄伝説』ってSF演劇であって、絶対に歌舞伎じゃねぇからな!!」
 千明の叫びに、流ノ介は大きく頷いた。
「そんなことは、もちろん判っている!でも、踊りも入っているんだろうが」
 力強い肯定だったが、どうも千明には信用できない。
「いや、判っているっつーなら、いいんだけど………。それこそ、殿と家臣が気持ちを一つにしてやりたいなって、俺は思ってるんだ」
 突然、流ノ介が大きく両手を広げた。
「素晴らしい!『銀河英雄伝説』!?題名も素晴らしいじゃないか!きっと、三国志みたいなものなんだな!?」
 千明が目を見開いた。千明が丈瑠を説得するために使ったのと、同じことを言っている。判っていないような素振りだが、本当は判っているのだろうか。
「ああ。流ノ介、わかってるじゃん。知ってるのか?銀英伝」
 しかし流ノ介は、肩を竦めると、軽く首を振る。
「いいや。全く知らん。しかし、その題名から想像はつく。素晴らしいヒーローの殿と、その殿を補佐して活躍する、それぞれが英雄と言っても良い家臣たちの物語だろう!」
「………えっ?」
 流ノ介の解釈に、微妙なニュアンスの違いを感じた千明だったが
「良いではないか!!これは、まさしく、この能楽堂で演るに相応しい演目だ!」
 到底、今の流ノ介相手に、正確なところを説明する気力は湧いてこない。
「………いや、まあ。そういう解釈も有りかもだけど………」
 あとで台本を読めば、理解して貰えるか、と千明は諦めモードに入る。
「安心しろ!私は歌舞伎しか知らないが、なにしろ歌舞伎には、スーパー歌舞伎というジャンルもある。SFだって、なんだってやるんだ!!」
 流ノ介は、全く理解していないのか。あるいは、勝手な自分の解釈を訂正する気がないのか。とにかく、聞いているようで、千明の言葉を全く聞いていないようだった。

 それでも仕方なく、丈瑠の説得を流ノ介に任すことにした千明は、ため息をつくと、その場に座り込んだ。











小説  次話






今回もなか一日で、更新ですー A^^;)
でも、キャスト発表まで行けなかったです〜(ToT)
なにしろ、書いても書いても、流ノ介が
千明の話を聞いてくれなくて………
それでも、ちょっとはギャグモードになりましたか?

次回こそは、本当にキャスティングの発表………のはず、です。
まだ、丈瑠の説得が残ってますけどね。
次回も、GW明け、そこそこにUPできればなあ………
と思っているだけ………ですが、頑張ります♪
明日が勝負!?明日、誰も私を邪魔しなければ、書けます!


2011.05.07